ママの手料理 Ⅲ
「…お坊ちゃま、?」


ツボに入ったのか、いつものポーカーフェイスが崩れて静かに椅子の背もたれに顔を押し付ける琥珀は、この際無視しておこう。


どうしてこの警察官は、こうも失礼極まりないのだ。


中森さんがたまに嘆いている理由が分かる気がする。



「ジェームズ、」


私は、お坊ちゃま…湊さんの掠れた声に反応して後ろを見た。


今まで私達の父親役を努めてきた彼は、長いこと執事の目を見つめ返していたけれど、やがて。




「久しぶり。…ずっと会いたかったよ」


まるで子供のような明るい笑顔を浮かべてジェームズさんの元へ駆け寄り、執事をぎゅっと抱き締めた。


その姿からは、湊さんとジェームズさんが培ってきた確かな絆が見え隠れしていて。


初めて見るリーダー達のその姿を、私は少し困惑しながらも微笑ましく見守っていた。



その後、私達はジェームズさんと湊さんのご両親に軽く挨拶をして、残りの夕飯を食べ始めた。


ジェームズさんと大也達は奥の方で身体を寄せ合って何やら話し込んでいて、その近くでは湊さんが自分の両親と向かいあわせで立っている。


湊さんは数年ぶりに自分の家族と会えたはずなのに、その顔は航海の様に無表情で。
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