ママの手料理 Ⅲ
それに、そんな事を仁さんに伝えたらまた嫌味を飛ばされるだけだ。


(隣に寝てる男、本当に面倒臭い…)


もう30歳を目前にして、どうしてそんなにナルシストぶりを発揮出来るのだろうか。


いや貶しているのではない、ただ不思議なのである。


そっと隣の黄金比の顔を盗み見て、はぁ…、と小さくため息をついた時。



「…大也が落ち込んでた件なんだけどさ」


まるでタイミングを見計らっていたかのように、仁さんが低い声を出した。


私は枕の上に頭を乗せ、じっとその言葉に耳を傾ける。


「さっき、ジェームズに言われたんだよね。…結婚したら、養子縁組は解除するって」


「…えっ?」


驚いた私は、思わず半身を起こして彼の方を向いた。


私に目も合わせずじっと天井を見つめている彼の口元には、いつもの当たり障りのない笑顔は浮かんでいなかった。


「僕達の養子縁組の目的は養護園から出る事だったし、もう2人共成人してるし、住む所も家族も居るから言い返せなかったけど」


彼の大きな瞳が、ぱちぱちと細かな瞬きを繰り返す。


「大也は、かなり衝撃を受けたんだね…家族の絆はそんな簡単に切れるのか、って言ってた」


大也がどうしてあんなに青白い顔をしていたのか、その一言で納得がいく。
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