undercover
女子生徒が、すぐ扉一枚越しに居る。「一緒に帰ろうよ」無垢なようすで部室を歩き回る彼女は、氷渡がこんな男だとは思っていなかっただろう。佳乃だって思っていなかった。しかし、今はただ口で口をふさぎ、膨らんだ股間を自分の太ももにこすりつけ、芽をいじることに没頭する“雄”である。声を出してはいけない。声を漏らしてはいけない。(全て、崩れる。)
佳乃は、快楽の波に涙を浮かべる。眉をひそめ、哀願するように氷渡を見上げたが、彼はやめるどころか、濡れに濡れた佳乃の中へ指を抜き差ししだした。ざらつき、熱を帯びたその中に異物が入っただけで・かきまぜられるだけで、激しく鼓動が高鳴る。経験のない快楽に溺れかけ、足がガクガクと情けなく震えて。う、──と小さく小さく声が漏れると。
「誰か居るの?」
──聞かれた。女子生徒は、ぱたぱたと足音を鳴らして歩き、その後ロッカーを端から開いていった。「まさかね」、そう独り言を呟いて笑いつつ開けてゆくのだ。
佳乃と氷渡の隠れているロッカーは直ぐ傍だ。氷渡もさすがに手を止め、身体をこわばらせる。もう遅いよ、ばれちゃうよ、見られちゃうよ。泣きながら佳乃は身を縮め、隣のロッカーの扉が開かれた音を聴いた後に、ばれることを覚悟する。が。
「あんた、氷渡、探してんの?」
ウィリアムズが、声をかけてきたようだ。饒舌な日本語だが、声がそれだから分かる。氷渡は瞳を細め、ロッカーの穴から外を窺っていると、女子は、勝手に入ってごめんなさいと慌てて謝っている。
「いいよ別に。氷渡なら、なんか大事な用あるとかで、もう帰ったよ」
「あ、そうなんだ……。教えてくれてありがとう」
失礼しました。女子生徒は赤くなりながら苦笑し、お辞儀をするとロッカーの扉を閉め、部室を後にする。ウィリアムズは息をつき、はあ。と、部室に入ろうとして少し黙り、目を伏せて。
「ばれないようにね。」
──一言、そう残して部室を後にしてゆく。は、と佳乃は惚けていたが、氷渡が扉を開けて息をつき、バレたら全てがオシマイになる寸前になったにも関わらず、強引に抱き寄せた後に乱暴に唇を押し付けてくるのだから、また慌てた。
「せん、ぱい。だめです。あぶないです、もう、」「だめなのは、俺の方。」
涙を舌で丹念に舐めとり、佳乃を抱えて部室の椅子に座ると、ショーツを一気に下ろした。それに仰天して、隠そうとすると手を掴まれ鑑賞されながら、ポケットに入れていたであろうゴムを、つけだす。(え、え、え?)もしかして、と思う間もなく、佳乃の身を自らの上へ座らせる。腰を下ろそうとしたその瞬間、穴へ──今度は指でない何かが、裂けそうな自分を置き去りに、侵入してくる。
「佳乃、深呼吸」
「い……っ」
耳元でささやくそれこそが、既に媚薬のようなものだった。これが、話に聞いていたもの? ──痛い、と涙をぼたぼたこぼす。友達は、案外痛くないよと言っていたけれど、人それぞれらしい。佳乃の身体はその場所から真っ二つに裂けてしまいそうで、恐怖。けれど、その裂こうとする相手が氷渡であるということに、幸福。快楽と、汗腺から吹き出てくる汗が氷渡にぺたりとついた密着に、興奮。3つの感情と心情に襲われ、はああっ、と恍惚のため息をつく。
「動いていい?」
「や、っ……だめ!」
「生殺しだよ。俺じゃ不満かな」
濡れた吐息が、後ろから耳元をくすぐる。目を虚ろにさせ、辛うじてスカートで隠れている陰部に入る男に奪われたバージンを、悼む。
「せん、ぱい」
「ん」
「さっきの……恋人、さん」
「そうだよ」
「わたし、しちゃいけないこと、してます」
「そうだね」
でも、俺を締め付けて放さないのは誰かな。──後ろから乳房を包まれ、絹のような声で言う。「佳乃」
「お前が、全てだ。」
──乾いた嘘。諧謔的に、甘い罠を仕掛けられていたのは、きっと出会った時から。佳乃は悔しくて仕方がなく、ぐしゃりとスカートを握りしめる。1番はあの恋人さんですよね。わたしは“その場しのぎ”。心まで支配は出来ない。だからこそ、こんなにも複雑で息がしづらい気持ちになっている。でも。
「ひ、わた、り先輩」
この人に。
「好きです」
この男に。
「最初に言ったとおり」
心全て、奪われてしまった。
「お好きなままに」
一刹那、氷渡は腰をゆっくりと揺らしだした。
「ふ、あぁっ」
「俺で、すごく、感じてる? ……奇麗だよ、佳乃」
「せ、んぱ……」気持ちは、届きましたか? あなたを迎えたことで、わたしの好さ(よさ)は伝わりましたか? ──痛いほどわかっている。だからこそ、見えない心・全てが、フラストレーションを解消するかのように、佳乃は氷渡の手の自らの胸にあてがい、彼の手で自ら揉みしだく。声が漏れるたび、このリエイションを薙ぎ払うかのように、ひたすら快楽の海へ沈みゆく。不安で仕方のないこの状況が、今はただ、羞恥心などを知らない獣へと変貌させる。
髪を振り乱し、荒い息と漏れる喘ぎ声。湿気と汗で顔に髪がへばりついている佳乃は、“おんな”へと様変わりをしていた・そして。
『 馬鹿な女になったもんだ 』
先週観たドラマの中で、年上の男が年下のヒロインに言った言葉。
『 全然よ。かまわないわ 』
強気に出た彼女の言葉の意味が、今は分かる気がする。
言葉と裏腹に、傍に居るだけで胸が高鳴るそれは──性的欲求へと繋がり、やがて差し込む夕日が揺らめく。窓の外の空に薄っすらと浮かんでいる三日月は歪み、それは佳乃が浮かべた涙のせい。
力で傷つけ合い、はたき合う勢いで離さなければ、離れることも出来ないほど、深く愛し合う。(別に、傷つけ合うことを、望んでいるわけじゃない。)佳乃は、まるで溺れかけている人のように氷渡の身体にしがみついている。
「行くよ」
その声に、交わり溶けてしまいたいと心底思う佳乃は、はい、と薄っすら目蓋を開き、頷いた。
「お好きに、どう、ぞ」
まるで限りある品物を提示され、これこそがいいんだと言う男の欲張り自身に満ちた表情にヤラれ、麗しい薫りが漂うそれに一目でどうしようもなく運命的な恋に落ち、すぐに頷く客のように佳乃は頷いた。というより、それ以外の提示する選択肢なんて、氷渡の中には存在しなかったのだけれど。
求め合い、最後に意識が飛びそうで反射的にキスをする。唇が触れ合った瞬間、脊髄に鳥肌が立つほどの快感が走る。失神しそうなほどの絶頂。全身をめぐる血液と共に酷く強すぎる快感が駆け抜ける。まるで、血液こそが、全てを慰める愛罪の果実で出来た汁なのかと錯覚するほどだ。氷渡の肩につかまっていた佳乃は爪を立て、ああ、と声を漏らし果てる。まだ、中に出ている。
──しちゃっ。た。
よくわからない後悔がまとわりつき、佳乃は虚空を見つめて恍惚としていたが、直ぐにまた。
「one more.」
氷渡が顔を近づけてきて、ああ・またキスをするんですか。と、もう抵抗する気もなくなっていると。ぺろ。
──眼球を舐められる。
「佳乃、もう一度」
一刹那、世界の色がぐにゃりとゆがんだ。こんなの知らない、ということが先ず第一だった処女でいて、純潔を持っていた自分には、もう二度と戻ることなど出来やしない──涙が、こみ上げてくる。
「奇麗だよ。佳乃」
「……もう少し、だけ……」
「ああ」氷渡は、ちう。と、今度は佳乃の唇に自分のそれを重ね、きちんとしたキスをする。
「もう少しだけ、愛してください。」
もう、戻れない駆け引きなどが、存在していない。佳乃は先ほどの氷渡の恋人が、誰かに似ていると無意識に思って既視感を憶えていた、それはつい先ほどの、雄として雌である自分と接する氷渡を知る前の自分だったのだのだと気が付いた。
燃ゆる情熱の交わりは、失せることなく・日が傾いても、果てがない。
佳乃は、快楽の波に涙を浮かべる。眉をひそめ、哀願するように氷渡を見上げたが、彼はやめるどころか、濡れに濡れた佳乃の中へ指を抜き差ししだした。ざらつき、熱を帯びたその中に異物が入っただけで・かきまぜられるだけで、激しく鼓動が高鳴る。経験のない快楽に溺れかけ、足がガクガクと情けなく震えて。う、──と小さく小さく声が漏れると。
「誰か居るの?」
──聞かれた。女子生徒は、ぱたぱたと足音を鳴らして歩き、その後ロッカーを端から開いていった。「まさかね」、そう独り言を呟いて笑いつつ開けてゆくのだ。
佳乃と氷渡の隠れているロッカーは直ぐ傍だ。氷渡もさすがに手を止め、身体をこわばらせる。もう遅いよ、ばれちゃうよ、見られちゃうよ。泣きながら佳乃は身を縮め、隣のロッカーの扉が開かれた音を聴いた後に、ばれることを覚悟する。が。
「あんた、氷渡、探してんの?」
ウィリアムズが、声をかけてきたようだ。饒舌な日本語だが、声がそれだから分かる。氷渡は瞳を細め、ロッカーの穴から外を窺っていると、女子は、勝手に入ってごめんなさいと慌てて謝っている。
「いいよ別に。氷渡なら、なんか大事な用あるとかで、もう帰ったよ」
「あ、そうなんだ……。教えてくれてありがとう」
失礼しました。女子生徒は赤くなりながら苦笑し、お辞儀をするとロッカーの扉を閉め、部室を後にする。ウィリアムズは息をつき、はあ。と、部室に入ろうとして少し黙り、目を伏せて。
「ばれないようにね。」
──一言、そう残して部室を後にしてゆく。は、と佳乃は惚けていたが、氷渡が扉を開けて息をつき、バレたら全てがオシマイになる寸前になったにも関わらず、強引に抱き寄せた後に乱暴に唇を押し付けてくるのだから、また慌てた。
「せん、ぱい。だめです。あぶないです、もう、」「だめなのは、俺の方。」
涙を舌で丹念に舐めとり、佳乃を抱えて部室の椅子に座ると、ショーツを一気に下ろした。それに仰天して、隠そうとすると手を掴まれ鑑賞されながら、ポケットに入れていたであろうゴムを、つけだす。(え、え、え?)もしかして、と思う間もなく、佳乃の身を自らの上へ座らせる。腰を下ろそうとしたその瞬間、穴へ──今度は指でない何かが、裂けそうな自分を置き去りに、侵入してくる。
「佳乃、深呼吸」
「い……っ」
耳元でささやくそれこそが、既に媚薬のようなものだった。これが、話に聞いていたもの? ──痛い、と涙をぼたぼたこぼす。友達は、案外痛くないよと言っていたけれど、人それぞれらしい。佳乃の身体はその場所から真っ二つに裂けてしまいそうで、恐怖。けれど、その裂こうとする相手が氷渡であるということに、幸福。快楽と、汗腺から吹き出てくる汗が氷渡にぺたりとついた密着に、興奮。3つの感情と心情に襲われ、はああっ、と恍惚のため息をつく。
「動いていい?」
「や、っ……だめ!」
「生殺しだよ。俺じゃ不満かな」
濡れた吐息が、後ろから耳元をくすぐる。目を虚ろにさせ、辛うじてスカートで隠れている陰部に入る男に奪われたバージンを、悼む。
「せん、ぱい」
「ん」
「さっきの……恋人、さん」
「そうだよ」
「わたし、しちゃいけないこと、してます」
「そうだね」
でも、俺を締め付けて放さないのは誰かな。──後ろから乳房を包まれ、絹のような声で言う。「佳乃」
「お前が、全てだ。」
──乾いた嘘。諧謔的に、甘い罠を仕掛けられていたのは、きっと出会った時から。佳乃は悔しくて仕方がなく、ぐしゃりとスカートを握りしめる。1番はあの恋人さんですよね。わたしは“その場しのぎ”。心まで支配は出来ない。だからこそ、こんなにも複雑で息がしづらい気持ちになっている。でも。
「ひ、わた、り先輩」
この人に。
「好きです」
この男に。
「最初に言ったとおり」
心全て、奪われてしまった。
「お好きなままに」
一刹那、氷渡は腰をゆっくりと揺らしだした。
「ふ、あぁっ」
「俺で、すごく、感じてる? ……奇麗だよ、佳乃」
「せ、んぱ……」気持ちは、届きましたか? あなたを迎えたことで、わたしの好さ(よさ)は伝わりましたか? ──痛いほどわかっている。だからこそ、見えない心・全てが、フラストレーションを解消するかのように、佳乃は氷渡の手の自らの胸にあてがい、彼の手で自ら揉みしだく。声が漏れるたび、このリエイションを薙ぎ払うかのように、ひたすら快楽の海へ沈みゆく。不安で仕方のないこの状況が、今はただ、羞恥心などを知らない獣へと変貌させる。
髪を振り乱し、荒い息と漏れる喘ぎ声。湿気と汗で顔に髪がへばりついている佳乃は、“おんな”へと様変わりをしていた・そして。
『 馬鹿な女になったもんだ 』
先週観たドラマの中で、年上の男が年下のヒロインに言った言葉。
『 全然よ。かまわないわ 』
強気に出た彼女の言葉の意味が、今は分かる気がする。
言葉と裏腹に、傍に居るだけで胸が高鳴るそれは──性的欲求へと繋がり、やがて差し込む夕日が揺らめく。窓の外の空に薄っすらと浮かんでいる三日月は歪み、それは佳乃が浮かべた涙のせい。
力で傷つけ合い、はたき合う勢いで離さなければ、離れることも出来ないほど、深く愛し合う。(別に、傷つけ合うことを、望んでいるわけじゃない。)佳乃は、まるで溺れかけている人のように氷渡の身体にしがみついている。
「行くよ」
その声に、交わり溶けてしまいたいと心底思う佳乃は、はい、と薄っすら目蓋を開き、頷いた。
「お好きに、どう、ぞ」
まるで限りある品物を提示され、これこそがいいんだと言う男の欲張り自身に満ちた表情にヤラれ、麗しい薫りが漂うそれに一目でどうしようもなく運命的な恋に落ち、すぐに頷く客のように佳乃は頷いた。というより、それ以外の提示する選択肢なんて、氷渡の中には存在しなかったのだけれど。
求め合い、最後に意識が飛びそうで反射的にキスをする。唇が触れ合った瞬間、脊髄に鳥肌が立つほどの快感が走る。失神しそうなほどの絶頂。全身をめぐる血液と共に酷く強すぎる快感が駆け抜ける。まるで、血液こそが、全てを慰める愛罪の果実で出来た汁なのかと錯覚するほどだ。氷渡の肩につかまっていた佳乃は爪を立て、ああ、と声を漏らし果てる。まだ、中に出ている。
──しちゃっ。た。
よくわからない後悔がまとわりつき、佳乃は虚空を見つめて恍惚としていたが、直ぐにまた。
「one more.」
氷渡が顔を近づけてきて、ああ・またキスをするんですか。と、もう抵抗する気もなくなっていると。ぺろ。
──眼球を舐められる。
「佳乃、もう一度」
一刹那、世界の色がぐにゃりとゆがんだ。こんなの知らない、ということが先ず第一だった処女でいて、純潔を持っていた自分には、もう二度と戻ることなど出来やしない──涙が、こみ上げてくる。
「奇麗だよ。佳乃」
「……もう少し、だけ……」
「ああ」氷渡は、ちう。と、今度は佳乃の唇に自分のそれを重ね、きちんとしたキスをする。
「もう少しだけ、愛してください。」
もう、戻れない駆け引きなどが、存在していない。佳乃は先ほどの氷渡の恋人が、誰かに似ていると無意識に思って既視感を憶えていた、それはつい先ほどの、雄として雌である自分と接する氷渡を知る前の自分だったのだのだと気が付いた。
燃ゆる情熱の交わりは、失せることなく・日が傾いても、果てがない。