没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~
王太子とエメラルドのブローチ
「本当にお売りになってよろしいのですか?」
やや目尻の垂れた翡翠色の瞳が、手元の真珠のネックレスを映している。
ブラウスとフレアスカートの上に深緑色のエプロンを着たオデット・ログストンは、宝飾品を主に取り扱うアンティークショップ〝カルダタン〟の宝石鑑定士。
肩までの栗色の髪にリボンつきの紺色カチューシャをした若干十七歳だが、宝石知識に長けていて買い取り希望の客対応をひとりでこなしていた。
艶やかな木目のカウンターを挟んで向かいに立つのは、中年の男性客。
ハンチング帽をかぶり直したその客が、残念そうに唸った。
「俺はネックレスをつけないから持っていても意味がないんだ。だが思ったより安かった。どうするか。他店をあたってみようか」
オデットが査定してつけた買い値は九千ゼニーで、この店で十時間働いてもらえる賃金程度。
男性客が駆け引きするような視線を向けてきたので、オデットは困り顔になる。
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