没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~
「家を買ってあげるよ。それとも城に住む? 俺の私室の続き部屋をオデットの部屋にすれば毎日朝晩、君に会える。そうしよう。だが、カディオに阻止されそうだな。使用人宿舎にオデットを入れたくはないし、客室の長期使用にはそれ相応の理由が必要だ。どうするか……」

嬉しそうな顔をしたり眉間に皺を寄せたりしながら、ジェラールはブツブツ呟いている。

プレゼントの規模がこれ以上大きくなるのは怖いので、両手を握りしめたオデットは珍しく強い口調できっぱりと断った。

「なにもいりません。私は今の暮らしに満足しているんです!」

これにはジェラールも焦ったようで、ブローチを持った手を引っ込めて謝ると困り顔で問う。

「それなら君はなにを贈られたら喜んでくれるんだ?」

その時、カランカランとベルの音が響いた。

カルダタンのドアベルではなく、外からの音にオデットはパッと笑顔になる。

「パンが焼き上がった知らせだわ!」

間もなく十二時で、昼食用のパンを買いにいこうと思っていた。

コロンベーカリーのパンはどれも美味しいが、オデットが一番好きなのはアップルシナモンパイ。

< 102 / 316 >

この作品をシェア

pagetop