没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~
オデットは慌ててエミーを抱き上げて、ルネに駆け寄った。

「ルネあのね、奥さんが病気がちで、ええと……」

一家を庇おうとしたのだが、ルネの怒りや悲しみを思えば言葉が続かない。

(許してあげてほしいけど、ルネの気持ちも大切だわ。どうすればいいの?)

眉尻を下げたオデットに、ルネは無理して笑みを作った。

それからブライアンに厳しい目を向ける。

「お金は返さなくていいと言ったでしょ。悪い男に引っかかった私が馬鹿だったのよ。勉強代だと思っておく。でもね、可哀想だから許してあげるって言えるほど私は綺麗な性格してないのよ。だから――」

バチンと痛そうな音が響いた。

ルネがブライアンの頬を思い切りひっぱたいたのだ。

ジェラールが咄嗟に腕を伸ばしてエミーの視界を遮ったので、父親が叩かれた様子を幼い娘は見ずにすんだ。

頬に手形をつけて顔をしかめているブライアンに、ルネがニッと口角を上げた。

「これで許してあげる。あんたね、こんな美人な奥さんと可愛い娘がいるのに、女性を口説くんじゃないわよ。私なら浮気夫は許せない。即離婚だわ。奥さんに誠心誠意謝りなさい」

「す、すまない」

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