没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~
「ちょっと来て」
庭の隅まで連れていかれると、ルネがひそめきれない声で内緒話を始める。
「ジェイさんは王太子殿下なの? 詐欺じゃなくて本当に?」
「うん。実はね――」
ジェラールと出会った経緯を話そうとしたが、興奮したルネに両手を握られてブンブンと振られた。
「なんで教えてくれないのよ! このままいけばオデットは王太子妃で将来は王妃? 玉の輿どころの騒ぎじゃないわ。めちゃくちゃすごいじゃない!」
「あのね、貴族の婚姻は家柄が重要だから私は無理なの……って聞いてないわね」
先ほどまでルネは確かに失恋に傷ついているように見えた。
目が少々赤いので泣いていたという推測も外れではないだろう。
けれども今はそれを忘れるくらいに、親友のシンデレラストーリーに盛り上がっている。
(勘違いしているけど……ルネが笑顔になったから、よかったわ)
やはりルネには笑顔が似合う。
嬉しくなったオデットは、ルネに両腕を回して抱きついた。
「大好きよ。ずっと一緒にいてね」
それを見ているジェラールが、「俺じゃなくて?」と悔しげに呟いたのには気づいていなかった。