没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~
双子王子とアクアマリンの指輪
王城の木々は紅葉し、陽光を浴びたイチョウの葉が黄金色に輝いている。
もう少し秋が深まれば、大邸宅の周囲は黄色と赤の絨毯が敷かれたように鮮やかに染まる。
(美しい景色をオデットに見せてあげたい。呼んでも来てくれないが……)
カルダタンに行けば嬉しそうにしてくれるのに、『私なんかが』と遠慮して王城への誘いはことごとく断られている。
ジェラールは長い廊下から秋の景色を眺めつつ足早に進む。
今日は朝から経済諮問会議に大橋建設の予算会議、船乗り組合の陳情を受けてから隣国の要人と昼食をともにし、そしてこれから外交問題に関する有識者会議だ。
時刻は十四時を回り、そろそろ焦り始める。
(早く今日の政務を終わらせないと、オデットと一緒にティータイムを過ごせない)
広い屋敷内を東棟から西棟に移動し、五分かかって目的の会議室前についた。
ドアノブに手をかけたら「王太子殿下」と後ろから呼びかけられた。
急いでいるのに誰だという思いで振り向くと、インペラ宰相が立っていた。
インペラ宰相は紅茶色の髪の半分が白髪の六十二歳。