没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~
「グスマン伯爵は中立派。問題ないと判断したから会いにいきました。大事な用があったためです」

「用とはなんですかな?」

「宰相には関係ありません」

すでに一分は過ぎている。

ジェラールが背を向けたら、あからさまにため息をつかれた。

「ヨデル伯爵の件といい、最近の殿下は随分と甘くなったものですな。そんなことでは足元をすくわれますぞ。私は心配でなりません」

ヨデル伯爵は呪いのエメラルドのブローチをジェラールに贈った貴族だ。

レオポルド派に通じていたことが判明したが、裁判で下されたのは禁固二十年の有期刑。

伯爵家も取り潰さず、息子が家督を継ぐことを許し、前代未聞の甘い判決だと新聞にも書かれた。

それはオデットの影響である。

『敵意を向けてくる相手に優しくしてあげたら、きっと嫌うのをやめて仲良くなれると思うんですけど……』

オデットへの心証をよくしたいという下心も多少はあったが、もちろんそれが理由ではない。

そういう方法もあると納得したから国王に相談の上、本来なら死罪でもおかしくないところを減刑するよう裁判所に働きかけたのだ。

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