没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~
(ティータイムが終わる前には着きそうだ)

この前ルネには身分がバレてしまい、お喋りな彼女からブルノにもすぐに話が伝わったが、相変わらずジェイとしてカルダタンに通っている。

お忍びでなければ護衛を伴わねばならないから煩わしく、オデットに身分の隔たりも感じてほしくない。

素朴な綿のシャツに安物の上着を羽織り、黒縁眼鏡をかけたらドアがノックされた。

ジェラールが返事をすると、入室して一礼したのは近侍のカディオだ。

三十二歳のカディオとは十年ほどの長き付き合いで、まだ少年と呼べる年頃から側近として仕えている彼には兄のようにたしなめられる時もあった。

カディオの性格をひと言で表すなら堅物だろう。

曲がったことが大嫌いで、ジェラールの執務室に納められている数百冊の本はアルファベット順に並んでいないと気がすまないタチである。

融通が利かないところが難点だが、ジェラールが王太子として一人前に公務をこなせるようになってからは、〝大目に見る〟という言葉を覚えてくれたようだ。

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