没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~
肩下で切り揃えた髪を一本の乱れもなくひとつに結わえ、えんじ色の上着をきっちり着こなしているカディオが、庶民服姿のジェラールに眉を寄せた。

「またカルダタンにお出かけですか。ただのお戯れかと思い目を瞑っていましたが、いささかのめり込みすぎでは。まさか平民の娘を妃に娶るおつもりではございませんよね?」

ジェラールは来月に二十四歳の誕生日を迎える。

周囲は勝手に花嫁選びの話で盛り上がり、娘を連れて謁見しに来る貴族がいたり、妃候補を自称する令嬢がいたりする。

(結婚相手は自分で選ぶ。おっとりと癒される雰囲気で、しかし興味があるものには目を輝かせて熱中し、優しく少し鈍感で笑顔が可愛い女性がいい。そのような女性はオデット以外にいないだろう)

カディオの厳しい眼差しに、ジェラールは困ったように微笑して問い返す。

「その通りだけど、駄目?」

「前例がございません。国王陛下がお許しにならないでしょう。貴族たちからの反発も予想され、王家の威信にも関わります」

父を説得する言葉は考え中だが、この国の貴族全員にオデットを妃として認めるよう話して回るのは現実的ではない。

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