没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~
カディオの言う通り、それも問題点だ。

「俺がなんとかするから、カディオは心配しなくていい。オデットに会いに行ってくる。一時間で戻るから」

急いでいるためごまかすように会話を切り上げたジェラールは、足早に私室を出る。

ドアを閉める前にカディオのため息が聞こえたが、もうすぐオデットに会えると思うと心が弾み、振り返ろうとは思わなかった。



* * *



商品の柱時計が十五時半を指している。

窓際のテーブルに向かって座るオデットは、柱時計と窓の外をチラチラと気にしていた。

客のいない店内に聞こえるのは、ルネのお喋りとブルノが新聞をめくる音。

湯気立つカップは三人分で、まだ紅茶を注いでいないカップがふたつあった。

ひとつは学校帰りに寄るであろうロイの分で、もうひとつはジェラールの分だ。

(お忙しい方だから、会いに来てくれない日もあって当然よね)

最近は毎日ジェラールの顔を見ている。

大抵このくらいの時間までにやって来て一緒にお茶を飲み、忙しく戻っていく。

今日は来ないのだろうと思ったら、寂しさが胸に広がった。

気持ちを切り替えようと、ルネの話に真剣に耳を傾ける。
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