没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~
心を見透かされて頬を染めたら、ブルノが新聞を見やすいよう折りたたんでふたりに向けた。

「ジェイさんは気さくに接してくれるが、王太子殿下には深入りしない方がいい」

ジェラールの正体をルネに聞かされた時、ブルノも大層驚いていたが、すぐに納得していた。

『どこかで見た気がする』とずっと思っていたそうで、それは祝賀行事で王太子の彼が市民に向けて挨拶した時の記憶だったらしい。

ブルノが指さす記事の見出しには、『妃候補者、六人に』と書かれていた。

深入りとは、オデットが妃候補に名乗りをあげるという意味だろう。

オデットは慌てて両手を胸の前で振る。

「私はジェイさんとお付き合いもしていません。深入りなんて、そんな……」

妃になれるとは少しも思っていないし、望んだこともない。

会いたい気持ちに気づいたばかりのオデットなので、ブルノの心配が的外れに思えた。

謙虚なオデットにルネが不満げになにかを言おうとしたら、ドアベルが鳴った。

パッと顔を輝かせて立ち上がったオデットだが、入店するなり勢いよく抱きついてきたのはロイだった。

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