没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~
頬を染めて断ると、「残念」と言いつつもジェラールはクスクスと笑う。

「俺もオデットを尊敬しているよ。形見の指輪に恨みの感情はないと教えてくれたから、遺書を探そうと思ったんだ。オデットの不思議な鑑定力がなければ、結婚を許されるまで何年かかったことか。ありがとう。今回もオデットに助けられた」

お礼を言われて心の中がじんわりと温まる。

くすぐったくも感じてフフと笑えば、オデットの左手にジェラールの右手が重なった。

たちまち鼓動を速めたオデットに、ジェラールがなぜかため息をつく。

「いきなり婚約はまずいから、まずはオデットを貴族たちに紹介するための晩餐会を開かないとな。そして婚約式と婚約発表。婚姻の儀はどんなに準備を急いでも一年後だろう。一年は長い。俺は我慢できるだろうか?」

「えっ……」

いくらオデットでも、我慢の意味がわからないほど子供ではない。

我慢できなかったらどうなるのかと想像してしまい、たちまち耳まで真っ赤に染まった。

その反応を待っていたというように、ジェラールがオデットの頭を撫でて嬉しそうに笑った。



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