没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~
聖女と水晶のブレスレット
空から雪がチラチラと降っている。
まだ積もるほどではないが、冬に入ったのでどの家も玄関脇には除雪用のスコップが用意されていた。
家々の煙突からは煙が立ち上り、王都の空の色を一段階暗く染めている。
十五時過ぎのカルダタンは、ダルマストーブに薪が燃えて暖かい。
「ありがとうございました」
オデットが来客を見送ったら、ルネが張りきってバスケットの蓋を開けた。
「今日のお茶菓子はシュークリームよ」
「わー、すごく綺麗で美味しそう! ルネが作るお菓子はどれも全部大好きよ」
「まぁね。だてに十九年、パン屋の娘をやってないわよ。私もオデットが美味しそうに食べてくれる顔が好き。ウサギみたいで可愛いんだよね。ジェイさんもそう思うでしょ?」
ジェラールは三分ほど前にやってきたばかりで、カウンター横のダルマストーブの前にぼんやり突っ立っている。
庶民風のコートもまだ脱いでいない。
「ジェイさん?」
どうしたのかとオデットが目を瞬かせたら、ジェラールがハッとして微笑んだ。
「ごめん、なに?」
「いえ、あの、お疲れですか?」