没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~
「私ってお菓子作りの才能があるのよ。でもパン作りはまだまだかな。うちの親には到底及ばない」

オデットはコロンベーカリーのパンも大好きで、ほぼ毎日買いにいく。

「ルネが作ったこの前のクリームパンも美味しかったよ。自信持って」

「ありがと。オデットはなんでも美味しいって言うから。私に対して気を使わなくていいのに」

自嘲気味に笑ってパンの話を終わらせたルネは「で?」と問いかけてきた。

オデットが首を傾げると、飴色の瞳を意味ありげに細める。

「あれからお城に行ったの? また使者が来ていたわよね?」

『ティータイムをご一緒に』という伝言を携えて、ジェラールの使者が何度かカルダタンにやってきた。

王太子から誘われていると自慢したわけではなく、王城からの立派な馬車が店の前に止まればルネがワクワク顔で様子を見にくるのだ。

それで根掘り葉掘り聞かれ、ブローチの件も併せてルネはすっかり事情を知っていた。

お茶の誘いは毎回断っていると答えたら、ルネが首を横に振る。

「もったいない。どうして断るのよ。玉の輿に乗るチャンスなのに」

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