没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない～下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です！～

どうしてという疑問が顔に表れていたのか、ジェラールが笑って答えてくれる。

「会いたかったんだ。誘っても君からは来てくれないようだしね」

（どうして私に会いたいと思うの？）

思わせぶりな言葉にオデットは目を瞬かせる。

鈍感なので恋の予感は少しも芽生えずポカンとしてしまったら、ジェラールが眉を上げた。

オデットの乙女心を刺激しようという目論見が外れて、彼もまた戸惑っているようだ。

「おい、お前。今、オデットの手にキスしただろ。僕のオデットに近づくな！」

焦り顔でふたりの間に割って入ったのはロイだ。

指をさして〝お前〟呼ばわりした相手が王太子だとは夢にも思うまい。

「ロイ、この方はええと……」

どう説明すればいいのかオデットが困ったら、ブルノがロイを叱ってテーブルに呼び戻してくれた。

入れ替わりにルネが近づき、声を少しも落とさずオデットに耳打ちする。

「ちょっとオデット、めちゃくちゃイケメンじゃない。あんたが王太子殿下の誘いに応じない理由がやっとわかったわ。すでにいい人を見つけていたのね。親友の私に紹介して！」