没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~
「おうた――」

「ジェイだよ」

「ジェイさん。もしかして先月のエメラルドの鑑定のお礼ですか? 鑑定料はかかりません。鑑定書や鑑別書をお作りする場合のみ料金をいただいています。ですので、こんなに高額なネックレスはいただけません」

もらえない、あげたいの押し問答が繰り返される間、焦り顔でこっちに向かってこようとしているロイはブルノに後ろ襟を掴まれジタバタしており、ルネはニヤニヤと楽しげだ。

そうこうしているとドアベルが鳴って女性客ふたりが来店し、騒ぎはいったん収まる。

「いらっしゃいませ」

顔見知りだったらしく、対応に出たブルノが笑顔で挨拶を交わす。

「しばらくお見かけしませんでしたね。お変わりなくお元気そうでなによりです」

バッスルスタイルのデイドレスを着た初老の貴婦人は上品にホホと笑う。

「主人が登城するというからついてきましたの。三年ぶりに王都ですのよ」

女性はとある子爵夫人で、以前は王都の街屋敷と領地の田舎屋敷を行き来する生活をしていたが、長旅が体にこたえる年齢になったので街屋敷は売り払い、今は田舎屋敷でのんびり過ごしているらしい。

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