没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~
ソファから立ち上がる仕草は上品だが、隣で居心地悪そうに鼻髭を撫でている夫を指さして声を荒げた。

「謝らなければならないのはあなたでしょう。なにを堂々と座っているのよ。ひざまずいてシュルビアとあなたの息子に詫びなさい!」

アランが目を見開いてグスマン伯爵を見た。

初恋を実らせるために貴族だったらいいのにと言っていた彼だが、まさか本当に伯爵家の血筋だったとは思わなかったようだ。

けれどもシュルビアに向けたような笑顔はなく、どことなく困っているような顔にも見えた。

夫人に厳しく叱られたグスマン伯爵は眉間に皺を寄せた。

おそらくこの家の中では伯爵の意見が絶対で、妻に糾弾されたことはなかったのだろう。

目をむいて言い返す。

「土下座しろというのか。この私に」

「それだけのことをしたでしょう? これ以上、私を失望させるなら実家に帰らせていただきます」

妻から離縁を言い渡されるのと謝罪を天秤にかけて悩んだ伯爵は、唇を噛んでソファから下り絨毯に膝をついた。

シュルビアとアランに向け、ゆっくりと頭を下げる。

「申し訳ないことをした。これから償いをさせてほしい」

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