没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~
「君が持っていることに価値があるスプーンだ。グスマン伯爵、それでいいですよね?」

ソファに腰を戻したところだった伯爵は、ジェラールに問われてハッと背筋を伸ばした。

「もちろんでございます」

お礼を言って受け取ったアランは、ハンカチを開いてスプーンを見つめる。

戻ってきたことを喜び、これからもっと頑張ろうと意気込んでいるようなその笑顔は、ルビーよりも眩しく輝いていた。



グスマン伯爵邸を後にしたオデットは王家の馬車に乗って帰路につく。

馬車内はジェラールとふたりきりで、一件落着の余韻に浸るオデットは笑顔でお礼を述べる。

「アランさんをお母さんに会わせてくださってありがとうございます。アランさんのお給料のことも気がかりだったのでホッとしました。なにもかも王太子殿下のおかげです」

オデットができるのは宝石にしみ込んだ想いを読んで相手に伝えることだけなので、その先に関しては手助けできずに歯がゆい思いをした経験がある。

「いや、オデットの不思議な鑑定力がなければ始まらなかった。君の功績の方が大きい」

くつろいだ姿勢で隣に座っているジェラールがオデットの髪を撫でた。

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