没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~
度重なるスキンシップに慣れてきて驚きはしなくなったが、鼓動はしっかりと高鳴る。

髪をすくように触れる男らしい指先と褒め言葉を照れくさく感じ、オデットは頬を染めた。

「殿下はお優しいですね。私、王家の方は一般市民の生活にご興味がないだろうって、勝手に思っていました。すみません」

頭を下げて偏見を謝り尊敬の目を向けたら、ジェラールが苦笑した。

「いつも誰に対しても優しいわけじゃない。正直に言うと、城下の民のひとりひとりに目を向けていられるほど暇でもない」

「えっ?」

だったらどうしてアラン親子を助けてくれたのかと目を瞬かせたら、拳三つ分の距離まで急に顔を近づけられた。

「どうしてかわからない? オデットに喜んでほしかったからだよ」

「私のため、ですか?」

「そう。もっとオデットと仲良くなりたいんだ」

友人関係においても仲良くという表現を使うが、至近距離にある琥珀色の瞳は蠱惑的な色を灯していた。

女性を口説こうと企んでいるような香水の甘い香りが鼻孔をくすぐり、オデットの頬は紅潮して否応なしに鼓動が高まった。

(からかっているのよね……?)

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