没落令嬢は今日も王太子の溺愛に気づかない~下町の聖女と呼ばれてますが、私はただの鑑定士です!~
パン屋の娘とモルガナイトのエンゲージリング
カルダタンは大勢の客で賑わう店ではないが、ポツポツと訪れる客はじっくりと商品を吟味して購入する。
今日は開店してすぐに中年の婦人がやってきて、オデットと世間話をしながら二時間ほど迷って宝石のついたオルゴールを購入した。
「いい買い物ができたわ。可愛い店員さんありがとう」
そう言って嬉しそうに退店する婦人を見送ったオデットは、口角を上げてジュエリー磨き用の専用クロスを手に取った。
店内に客はいないため、商品陳列棚に並んでいる品物をひとつずつ丁寧に拭く。
そうしていると作業部屋のドアが開いて、ブルノが出てきた。
「オデット、修理がすんだジュエリーを届けてくるから店番よろしくな」
「あの指輪ですね。わかりました。ブルノさん行ってらっしゃい」