さよなら、愛してる〈不知火の姫 外伝〉
「うるせえな!」
ニヤニヤとしている弘人をぎっと睨みながら、一番奥にある一人掛けのソファにどっかりと腰を下ろす。
今日は弘人の他に、その彼女の奈央がいるだけだった。
「あっはは! 凪先輩、怒ってる~! 不知火の総長なのに赤点補習じゃあ、台無しだよね!」
奈央は二つ下の一年。不知火のメンバーでも何でもないけど、藍乃と同じクラスで友達で。藍乃が俺にくっついて不知火に出入りしていたから、奈央も藍乃についてきて出入りするようになり、いつの間にか弘人の彼女になっていた。
黒髪ロングで見た目は清楚系だけど、がさつで口が悪い。
いつもならもう二人、幹部がいる。特攻隊の第一と第二をそれぞれまとめている、不知火の特攻隊長だ。
今日は二人は来ないのか、と弘人に聞いたら……一人は用事があるって来てないらしく、もう一人はそれに付き合っているらしい。
まあ、ほっといてもそのうち来るだろう。
今の不知火の幹部は、とにかくマイペースな奴が多い。
「――あれ? 藍乃はまだ来てないんだ?」
部屋の隅に置いてあるクーラーボックスの中から、アイスを取り出しながら弘人にそう聞く。倉庫には冷蔵庫も無いからクーラーボックスを代わりにしている。
いつも誰かが常備してくれている、バニラアイス。俺の好きなやつ。