さよなら、愛してる〈不知火の姫 外伝〉
 振り返ると、真っ青になっている元雲竜の奴らの姿。

 そしていつの間にか倉庫内には大勢の不知火。白装束が群れをなして揺れている。

 腰を抜かしたようにへたり込んでいる男へ近付く。こいつは最初に俺が殴ったヤツだ。目の前に立ち見下ろすと、ヒッという短い悲鳴を上げた。


「――それで、この後はどうするつもりだ?」


 そう問いかけたが、怯えるばかりで返事はない。


「まだやるか、って聞いてんだ。ヤクザがいようがいまいが、不知火は手加減しない。続きをやりたいってんなら喜んで相手になるが?」

「いや……! あの……そ、の……!!」


 男は口の中でモゴモゴ何か言っているが、よく聞こえない。

 そのうちに男は、ケツを捲って倉庫の扉へ猛ダッシュ。あっという間に逃げ去った。後に残った奴らもあわててそれに続き、結局全員が沈没船のネズミがごとくいなくなってしまった。


「……とんだ拍子抜けだな」

「まあまあ、そう言うなって、凪。お陰でつまんねー怪我とかしなくて済んだし」


 隣の弘人がそう言った。


「そうですよ~凪さん! この特攻服汚したら洗うの大変なんスから~」

「何を言ってるんですか、風吹。いつも洗ってるのは俺でしょう……」


 風吹と響生も寄って来てそんな事を言い合って小競り合う。
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