さよなら、愛してる〈不知火の姫 外伝〉
「体、大丈夫なら、もう帰るぞ」
「……私、凪と一緒に帰ってもいいの?」
「ダメなのか? お前は不知火の姫なんだろう?」
「……でも私、不知火のみんなに嫌な思いさせたし、嫌われちゃっただろうから。もう、姫なんて……」
「お前、本当にバカだな」
「ひどっ! 確かにバカだけど、そんな風に言わなくてもいいじゃない!」
「周りを見てみろよ」
俺がそう言うと、藍乃はやっと顔を上げた。一度俺と目を合わせてから、辺りをぐるりと見回す。
藍乃を責めるヤツなんて一人もいない。誰の視線もきっと同じだ。じゃなきゃ、今ここにいない。
――藍乃が無事で良かった、って視線。それに……
「……白輝の王者……?」
「お前の事を嫌ってたら、みんな特攻服着て集まったりしねえんだよ」
藍乃の瞳からまた、大粒の涙が溢れ出した。
たまらず、俺は座ったまま藍乃を抱き寄せた。
「え! ちょ……凪?!」
ジタバタもがくのを強引に抱き留める。
「……動くな」
「で、でも……!」
「いいから、黙ってろ」
うん、と小さな声で返事をすると、藍乃は体を俺に預けた。
体温、少し汗ばんでるのか、汗の匂い。早い呼吸音。腕の中にスッポリ収まる小さな体。
そのどれもが愛しくてたまらない。