さよなら、愛してる〈不知火の姫 外伝〉
 弘人が気を利かせたのか、他のメンバーを促して撤収を始めた。


「――後の事は適当にやっとく。お前は藍乃ちゃん送ってやれ」


 弘人の言葉に片手を上げて答えた。

 それで少し力が緩んだからか、腕の中の藍乃がもぞりと動く。


「……良かったぁ」


 顔を伏せたまま呟く、くぐもった声が聞こえた。


「私ね、亜賀座くんの事で凪に嫌われちゃったんだと思ってた」

「嫌ってねぇし」

「うん、だから、良かったなぁって」


 ふいに顔を上げた藍乃と目が合った。大きな瞳。瞳の奥には小さい時の面影が残ってる。

 誰もいなくなった倉庫内。しんと静まり、自分たちの心臓の音が聞こえてきそうだ。


「藍乃、俺は……」


 だけどそこまで言った瞬間、ガクン体の力がと抜けたように藍乃が俺にもたれ掛かった。


「藍乃?」


 顔を俺の胸に押し付ける様になっているが、呼びかけても返事がない。


「おい! 藍乃?!」


 抱えている腕で揺すってみたが、それも反応が無い。

 聞こえてきたのはハアハアという荒い呼吸音。そして、触れている体から感じる熱さ。

 目を閉じて混沌としている藍乃のおでこに手をあてた。

 ――すごい熱だ。
< 103 / 138 >

この作品をシェア

pagetop