さよなら、愛してる〈不知火の姫 外伝〉


「藍乃ちゃん? もうすぐ来るんじゃね?」


 弘人がそう言いながら奈央を見ると、彼女は頷く。どうやら二人はまだ、藍乃には会っていないようだ。


 何だかおかしい……


 俺が補習を受ける前に藍乃はもう学校にいたんだ。それなのに、まだ終わっていないなんて。

 一体あいつは学校で何をしているんだ?

 電話してみようかと思い、ポケットに手を入れ携帯に触れた瞬間――


「あーつーい! 歩いて来ると暑くて溶けそうだよ~」


 汗だくになった藍乃が幹部室へ現れたのだ。その姿にホッとして、俺はまたソファに深くもたれた。


 俺がこんなに藍乃の事を心配するのには、理由がある。


 もう随分前になるが、子供の頃――今日みたいに夏休みで暑い日だった。

 俺はその日は早く遊びに行きたくて、いつものように付いて来る藍乃を置き去りにして走って公園へ遊びに行ってしまった。藍乃は身体が小さくて足が遅いから、ノロノロ歩くのに我慢が出来なかったんだ。

 藍乃は後から来ると思っていた。置いてけぼりにするのはそれまでもよくやていたし、泣きべそをかきながらも藍乃は絶対俺の後を追って来ていたから。
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