さよなら、愛してる〈不知火の姫 外伝〉
――でもその日、藍乃は来なかった。
後で親に聞いたが、藍乃は前日に熱を出していたそうだ。それなのに無理に俺の後を追い、公園へ向かう途中で暑さに負けて倒れてしまった。偶然通りかかった近所の人に助けられ大事には至らなかったが、救急車を呼ぶ大騒ぎにはなってしまった。
俺は酷く後悔した。
藍乃は元々体があまり丈夫じゃない。それを知っていたのに、自分の欲に負けてしまった。
自分で自分が許せなかった。
あれから……俺の中で藍乃は『守るべき対象』になっている。
藍乃は幹部室に入ると、俺の隣にあるソファに当たり前のように座る。そこがもう彼女の指定席になっていた。
藍乃は不知火のメンバーでも何でもないが、俺にくっついて出入りしている常連だ。ショートカットに子供っぽい顔がかわいいと人気らしいけど、いつも俺といるから手を出してくるような奴はいなかった。
もしかしたら下っ端たちには、彼女だと思われてるのかもしれない。
……まったく、迷惑な話だ。
俺はもっと大人っぽいのが好みなんだが。