さよなら、愛してる〈不知火の姫 外伝〉
「……俺たちはもう、離れた方がいい」
泣き叫ばれるかと思っていた。だけど驚くほど病室は静かで、外の廊下で食事を配膳している看護師さんや患者の声がザワザワと聞こえる。
「……パパに言われたんでしょ? 分かってる……パパ、私と凪の事をずっと良く思ってなかったから」
「違う……ずっと前から考えてたんだ。俺からお前は離れた方がいい、って」
それは嘘じゃない。藍乃の父親の言葉は引き金になったが、同じ事をずっと考えていた。
「……それとも、私がアメリカにいくかもしれないから? だったら、行くの止める。ずっと凪のそばにいる! 移植なんてしなくてもきっと大丈夫だよ!」
「何バカいってんだよ!」
「だって……バカでいいよ、私は凪と一緒にいたい。離れるなんて嫌だよ!」
藍乃の瞳から涙が溢れ出す。
だけど俺は背を向けたまま、振り向く事はしなかった。
代わりに大きなため息を、わざとらしく吐き出した。
「お前のそういうのが、いいかげんウザいんだよ」
「え……?」
「いつも何処へでも付いて来て彼女気取り。それに、お前体弱いから気ぃ使うし、めんどくせぇんだよ」
「酷いよ、凪……何で急にそんな酷い事言うの?」
「急にじゃねえよ、ずっと前から考えてたって言っただろ」
「……私は、凪が大好きだよ……凪も同じ気持ちだと……思ってた……」