さよなら、愛してる〈不知火の姫 外伝〉
 夏が終わろうとしている。

 あれだけ騒いでいたセミたちも数を減らし、朝晩に少し涼やかな風が吹き始めた。あんなにギラギラしていた太陽と真っ青だった空を見上げると、その光と色が変わってきたのが分かる。

 だけど昼間はまだまだ気温も高く、不知火の倉庫も相変わらずの暑さだった。


 あれから――

 俺は決めた通り、不知火の(おきて)を一つ増やした。




『姫不在の掟』

 様々な危険を回避する為、不知火には姫を作らない事とする。




 これには幹部の三人がなんやかや言ってきたが、当たり障りのない理由で誤魔化した。話の流れ的に、藍乃が姫を辞めた事も、渡米する事もだいたい話す事になってしまったが。

 だけど、俺が藍乃から離れた事は言わなかった。幼馴染みを解消したとか、ワザワザ言うことでもないだろう。

 吹雪と響生はさほど興味がないのか、それ以上は触れないでいてくれた。

 ただ弘人は何かを感付いたようだ。

 弘人には、今度ちゃんと話そうと思う……


 その後は、いつも通り。

 不知火をぶっ倒したいと攻め入る族を払い除けたり、誰かが買ってきた大量のスイカでスイカ割りとかアホな事したり。

 藍乃がいないから、念願のみんなで海水浴も行けた。
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