さよなら、愛してる〈不知火の姫 外伝〉


「――なあ、これから海行かねぇ?」


 唐突に弘人がそんな事を言い出した。こいつはいつも唐突だ。


「いいね! 海行きたい!」


 最初に飛びついたのは、奈央。まあ大抵の場合、奈央は弘人に賛同する。

 弘人の声が聞こえたのか、階下の奴らもワッと盛り上がった。ドアが開いてるから、ここの話も筒抜けだ。


『――いいっすね! 海行きましょー!』

『――やった! 海だー!』

『――俺、水着持ってくる!』


 歓喜の声がどんどん聞こえてきてもう収集がつかない。もちろん、俺も行きたい。だって夏と言えば海だろ!

 でも……


「私も行きたい!」


 そう叫んだ藍乃の声に、俺はハッと我に返る。


「……藍乃は、ダメだ!」


 俺の言葉に、今まで騒いでいたみんなも黙り込む。藍乃は怒って俺を睨んだ。

 今まで、何度こんな会話を藍乃としただろう。でも仕方なかった。


「どうしてよ、凪! 私だって海に行きたい!」

「ダメだ、お前は留守番!」


 『留守番』その言葉に、藍乃は怒って頬を膨らませる。


「おい、凪。たまにはいいじゃんよ、藍乃ちゃんも一緒に行こうぜ?」

「そうだよ~凪先輩! 今年初めての海だよ! 藍乃も一緒の方が絶対楽しいよ~!」


 俺と藍乃の険悪さを見かねたんだろう、弘人と奈央が助け船を出してきた。だけど俺は頷くつもりはなかった。
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