さよなら、愛してる〈不知火の姫 外伝〉
 少し考えてしまったが、自分が下へ下りる事にした。幹部室では野次馬が多過ぎる。

 生島と一緒に下へ行くと、そこには本当に藍乃の姿が。

 藍乃は俺と目が合うと照れくさそうに笑った。


「――凪、久しぶり……って、そうでもないか。たった半月ぶりぐらいだもんね」


 久しぶりに聞いた藍乃の声。

 『たった半月』とはいえ、永遠のように感じていた。


「タクシーでパパたちが待ってるから、そんなに長くはいられないんだけど……凪と話がしたくて」

「……分かった」


 倉庫の裏から出て、コンビニへ行く事にした。倉庫ではみんなが宿題をやるフリをしながら聞き耳を立てている気がするから。

 まだ昼過ぎだからだろう、外は暑かった。でも空が高くて、どこか秋を感じさせられる。

 並んで二人、無言で歩く。こんな調子だとすぐにコンビニへ着いてしまうのに。


「……今日、これから日本を発つよ」


 大きな木の影が道を覆っている場所で足を止めると、藍乃は言った。


「そうか……」


 少し、声が震えてしまったかもしれない。慌てて一歩二歩三歩、前へ進み藍乃に背を向けた。

 自分が動揺しているのを見せたくなかった。




 藍乃がいなくなってしまう事に、まだこんなに心が震える……



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