さよなら、愛してる〈不知火の姫 外伝〉


「今まで……ごめんね。私、ずっと凪に甘えてた。いつも一緒にいたかったから……」


 藍乃の声が止まると、代わりにハアと大きく息を吐くと音が聞こえた。





「大好きだよ、凪……一緒にいてくれて、ありがとう……」




 ざあっと、木の枝を揺するように風が吹いた。それは俺たちの間を通り抜け、あっという間に行ってしまった。


 藍乃を、抱きしめてさらってしまいたかった。そうしてアメリカなんて行かせないでずっと俺だけのものにする。誰もいない誰も知らない場所に閉じ込めて、ずっと一緒にいる……

 でも、そんな事が出来ないのは、分かり切っていた。

 俺には藍乃の病気を治す事は出来ないし、治してくれるツテも、渡米して移住できるような経済力も無い。

 『好き』とか『一緒にいたい』、だけでは解決できない問題が、俺と藍乃の間に横たわっている……


「……それじゃあ、もう行くね。飛行機の時間があるから」

「ああ……」

「元気でね、凪……不知火で暴れすぎて、怪我なんかしないように……」

「……うん」

「弘人くんたちにもよろしく伝えてね。ありがとうって言っといてね」

「分かった……」

「凪……」


 途切れた言葉を追う様に振り返ると、瞳に涙をいっぱいにした藍乃の笑顔。
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