さよなら、愛してる〈不知火の姫 外伝〉
「藍乃は長時間暑い中にいると体調崩すだろ。それに発作も出るかもしれない。みんなに迷惑が掛かるからダメだ!」
きっぱりとそう言うと、藍乃は反論が出来なかったんだろう。俺を恨むように見つめてきた。
「…………じゃあ、凪も一緒に留守番してくれるなら我慢する」
「はぁ⁈」
……こいつ、絶対腹いせに俺を巻き込もうとしてる。
俺も睨み返したが、藍乃は目を逸らさなかった。
暫く睨み合っていたが、やがてため息一つ。
「分かったよ、俺も行かねえ。それでいいだろ」
あきらめてそう言うと、藍乃は嬉しそうに笑った。
不知火のみんなは弘人の引率で、楽しそうに海へ行ってしまった。
それを見送ると、俺は藍乃をバイクの後ろに乗せて帰る事にした。誰もいない倉庫なんて、ただ暑いだけだ。居る意味は無い。
外に出ると藍乃に予備のヘルメットを渡し、倉庫の前に停めていたバイクに先にまたがる。いつもなら藍乃もすぐに後ろに乗り込んでくるのだが……
今は何故か、ヘルメットを両手に持ったまま、それを見つめるように俯いて動こうとしない。
「――どうした、藍乃。帰るぞ」
「うん……」
促すように声を掛けたが、返事はしたもののやはり、俯いたまま立ち尽くす。
ため息一つ。俺はバイクのスタンドを立て降りると、石のように固まってしまった藍乃の前に立った。