さよなら、愛してる〈不知火の姫 外伝〉


「何だよ、藍乃。どうしたんだ?」


 下から顔を覗き込む。すると藍乃はぎゅっと唇を噛み締め、今にも泣きそうになっていた。


「藍乃?」


 わけも分からずもう一度問いかけた。

 泣くような事、何かあったか? それとも、泣くほど海に行きたかったのか……


「……ごめん」

「え?」

「ほんとは凪、みんなと海に行きたかったんだよね……私のせいで……行けなくなっちゃって……ごめんね……」

「何だよ、そんな事か……いつもの事だ、慣れてるよ」


 ホッとしたため息を吐きながら、ポンと手を藍乃の頭に置いた。

 だけど藍乃は、その手を振り払うように頭を振る。同時に俯いた目から涙が零れた。


「凪は……いつもいつも、私の為に我慢してくれて……ごめん、ね……
でも……もう……私…………」


 泣きながら話すくぐもった声をぐっと堪えたのか、藍乃は身体をぎゅっと固くちじませた。同時に、持っていたヘルメットに涙の粒が数滴落ちた。


「――もうって……? 何だよ」

「あのね、凪……私……――」


 藍乃が何かを決心したように話し出した、その時――
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