さよなら、愛してる〈不知火の姫 外伝〉


「――補習⁈」


 夏休みの前日の放課後、帰ろうとしていた所を担任に呼び止められた。その話に俺は驚いて声を上げた。


「当たり前だ、バカ稲葉(いなば)! 二年の時もギリギリでやっと進級出来たのに、三年は一学期でもう出席日数はヤバい、テストは赤点まみれ。いくら付属の大学があっても、それじゃあ入学はおろか高等部卒業すら出来ないぞ!」


 ここ『私立 泉ヶ丘学園』は、広大な敷地に幼稚園から大学まである、セレブ御用達の一貫校だ。普通に授業に出て平均値ほどの成績なら、すんなりと付属の大学まで行ける。

 そのうえ、国立や有名大学への進学率も高い、所謂(いわゆる)進学校でもあった。それ故に勉強関係は意外と厳しい。

 だけど俺は、高校二年の夏に先代の総長から不知火という族を引き継ぎ、総長になったばかり。自分が主導で大きな族を動かすなんて、楽しくて仕方のない時期だった。学校や勉強なんて二の次。不知火を狙って来る他の族を、ゲーム感覚で嬉々として潰しまくっていた。

 だから担任のその言葉は、夏休みを目前にして浮かれていた俺にショック死しそうな程の衝撃を与えた言葉だった。

 勉強は嫌いだ……
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