さよなら、愛してる〈不知火の姫 外伝〉
 藍乃の家は、大通りから一つ道を隔てた閑静な住宅街にある。

 住宅街はいくつかのブロックに別れていて、俺の家は藍乃んちから2つ程ブロックを挟んだ場所だ。

 もう陽が暮れようとしていた。でもバイクで行く程では無いので歩いて向かった。

 家族ぐるみの付き合いで、小さい頃はよく家を行来していた。だから藍乃の家への道はあの頃の事を思い出してしまう。


 あいつ、昔から意地っ張りで泣き虫だったな……


 歩きながらそんな事を考えていたら、あっという間に着いてしまった。


 周りの家より少し大きくて庭も広い佐久間家。他の家庭より裕福なのが伺える。両親が共に弁護士だからだ。でも母親の方は藍乃が生まれてから仕事は減らしているみたいだが。

 玄関の正面に立つと、ポケットから携帯を取り出して藍乃に掛けた。今外にいるって言ったら、切るのと同時に玄関の扉が開いた。

 いつもの制服とは違う、涼しそうなノースリーブの青いワンピース。藍乃なんて見慣れているはずなのに、今日はなんだか違って見える。


「――どうしたの急に。家まで来るなんて珍しいね。あ! 今日、倉庫に行かなかったから? 姫は毎日行かなきゃダメだった?」

「いや、そうじゃない。別に毎日来なくてもいい……」

「じゃあ、なに?」


 ……どう聞いたらいいんだろう。

 なかなか話が出来ない。言葉が出て来ない。
< 47 / 138 >

この作品をシェア

pagetop