さよなら、愛してる〈不知火の姫 外伝〉
「お前は、いつまでこんなくだらない事をやってるつもりだ。総長とかなんとか、社会に出たら何の役に立たないもので意気がって! 自分が周りにどれだけ迷惑を掛けてるのか、まだ分からないのか!」
――言いたい事を一方的に言い捨てると、あの男は迎えに来た黒塗りの車に乗って去って行った。
俺は結局、あの男に一言も返せなかった。
別にあの男を恐れているとかそういう事ではない。対峙すると怒りが湧いてくるんだ。腹の底から出てくる消せない怒り。
母親と結婚こそしていないが、生活の援助や学費は出して貰っている。だけど、あの男との関係はそれだけだ。
あいつは俺や母親の事をまるで物のように扱う。
愛情なんて、何処にも見当たらない……
握っている拳が、力を入れ過ぎて震える。まるで怒りを握り潰しているようだった。
「凪……大丈夫か?」
弘人が声を掛けてくれて我に返った。
「……ああ、大丈夫だ。いつもの事だ」
息を大きく吸って吐く。体の中でくすぶっていたドロドロしたものを空気へ開放するように。
「とりあえず、倉庫へ行くか、弘人。風吹と響生もそろそろ見回りから戻ってるだろ」
「ああ、そうだな……」