さよなら、愛してる〈不知火の姫 外伝〉
 弘人が返事をしたその時、フォン、とバイクのエンジン音が聞こえた。そちらの方へ視線を向けると、道路の向こうに一台のバイクが停まっていた。

 それに乗っていたのは――雲竜の亜賀座。

 そしてその後部座席に……


「藍乃……!」


 思わず声が出てしまった。

 久しぶりに顔を見たのが、あいつのバイクに乗っている所なんて……

 俺の声が聞こえたのか、藍乃はふいと顔を伏せた。

 亜賀座は、バイクと藍乃をそこに残すと、行き交う車の間を抜けてこちらへ歩いて来た。そして俺たちの前へ。


「――あれー? こんな所でどうしたのー? わあ! お店がめちゃめちゃだねぇ? 一体誰の仕業なんだろう?」


 にやにやと笑いながら、茶化すようにそんな事を言う。


「……ふざけんなよ、てめぇ! 不知火の縄張りをこそこそ荒らすような事しやがって!」

「えー? なに、それ。僕の雲竜がやったって証拠はあるの? 無いなら変な言いがかりつけないでよ。まあ、僕がやらせるなら、証拠を残させるようなヘマはしないけど」


 ――まったく、イライラさせられる。


 父親にも、亜賀座にも……藍乃にも……

 何を考えているのか分からない。あんなにずっと一緒にいた幼馴染みだったのに。

 なんで敵の亜賀座なんかの所にいるんだ。

 俺に何を隠してるんだ。

 どうして話してくれないんだ。
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