さよなら、愛してる〈不知火の姫 外伝〉


 ……もう、たくさんだ。


「――めんどくせぇ事はもう終わりにしようぜ、亜賀座!」


 ちらりと藍乃を見る。少し距離があるし顔を伏せたままだから、どんな表情なのかは分からない。

 だけど多分、泣いてる気がする……

 俺はあいつを泣かせてばかりだ。


「倉庫街の空き地、分かるだろ。一週間後の午後八時、それでいいか?」

「お、おい、凪! 待てよ!」


 弘人が慌てて止めてきたが、もう口から吐き出してしまった言葉は取り消せない。

 亜賀座の顔を睨みつけると、ヤツは面白そうに口を歪めて笑い返してきた。


「いいよ! もちろん歓迎だよ! 僕もそろそろ小細工に飽きてきてた所だったんだ!」

「これで負けたら、潔くここを去れ! よそでコソコソ走るのぐらいは見逃してやるからよ!」

「分かったよ。でも、僕たち雲竜が勝ったら、不知火の幹部はみんな貰うよ? もちろん、総長であるキミも含めてね」

「……ああ、分かった」

「おい! 凪?!」


 弘人が驚いて声を上げたが、それも無視した。


「ああ、それと……そちらの姫は戻りたくなさそうだから、全部終わるまで預かっておくよ。勿論、勝ったら彼女も貰うんだけどね」


 亜賀座の軽口にも返事はしなかった。
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