さよなら、愛してる〈不知火の姫 外伝〉


「――何だ、藍乃(あいの)か……」


 こいつ――佐久間 藍乃(さくま あいの)は二つ下の一年で、ここの幼稚園からずっと一緒で家もわりと近い。所謂(いわゆる)、幼馴染みというやつだ。

 藍乃は俺には妹みたいな存在で。藍乃にとっては俺は兄みたいなもんだろう。

 藍乃は昔も今も、飽きもせず俺の後ばっかり付いてくる。


「何だ、って何よ! 凪こそどうして夏休みなのに学校いるの⁈ いつも不知火ばーっかりなのに!」


 最近の藍乃は、いつも俺の言う事に突っかかって来る。それが少し面倒臭い。


「俺は補習。お前こそ何で三年の階にいるんだよ」

「――補習?! 何やってんの! バカじゃない?!」


 藍乃の強い言い方に、少しカチンときた。


「うるせえな! バカだから補習やんだよ! バーカ!」


 ……あ。何だか墓穴を掘ってしまった気がする。

 案の定、藍乃は俺の言葉に噴出した。


「確かにそうだね。ごめんね、凪」


 クソっ! 何かムカつく。

 こいつといるといつもこんな調子だ。


「……お前は何でこんなトコいるんだよ」


 話を逸らそうとそう苦し紛れにそう言うと、藍乃は困ったように眉を下げ、笑顔を作った。

 ……話したくない事がある時、いつもする表情。
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