さよなら、愛してる〈不知火の姫 外伝〉
 弘人は男が属する組の話を突然始めた。

 一体何が目的なのか俺にも分からない。


「そうそう、若頭の (まさる)さんはお元気ですか?」

「わ……若頭……?」

「勝さんは俺が小さい頃、頭と一緒にうちに来る度に遊んで貰ってたんですよ。ああ、懐かしいなあ!」

「うちに来る度って……じゃあ、おまえの家も千里会なのか?」

「あ、いえいえ。うちはそういうんじゃないです」


 ――ん? 弘人の家って確か……


「あれっ? でもそうすると……」


 弘人はわざとらしく何かを考え込むフリをした。


「な、何だよ……!」

「いえ、そういえば『千里会』はいろいろと規則が厳しいって聞いた事があったなあ、と思って」

「お、おう……? 確かに頭はルール破りと筋の通らねえ曲った事は大嫌いだな」

「じゃあ、拳銃無断で持ち出したり、暗黙とはいえ不可侵ルールの族から金貰って用心棒してる、なんてバレたらヤバくないですか?」

「えっ……?! なんだよ、何が言いてえんだ」

「いえ、別に? ただ、言い忘れてたけど俺んち、寺なんですよ。『道明寺』って、聞いた事ないですか?」


 ――道明寺。

 弘人の家は寺だ。そして父親は住職さん。

 和尚の息子が暴走族なんて、とよく言われてるみたいだが弘人も父親もあまり気にしてないようだ。
< 97 / 138 >

この作品をシェア

pagetop