さよなら、愛してる〈不知火の姫 外伝〉
 でも遊びに行くと必ず、和尚様の有り難くて長いお説教を聞かされる……

 それが何の関係があるんだ?

 弘人の意図する所が分からず首を傾げている俺とは真逆に、ヤクザの男の顔色が変わっていった、何かに気付いた始めは赤くなり、それがどんどん青く変化して。

 今では冷や汗までかいている始末。


「ど、道明寺、だと……? あの、五丁目にあるデカい寺の……?」

「そうです、五丁目の道明寺。ご存知ですよね?」


 男は頷きもせず俯いてしまったが、知っている事は明白だった。


「いやしかし、本当に懐かしいなぁ。あ! そうだ! 勝さんに今連絡とってみていいですか? 携帯の番号まだ変わってないですよね? あなたと一緒にいる事話したら、驚くだろうなぁ――」

「ば! バカ! 止めろ!!」


 弘人がポケットを探り携帯を取り出す仕草をすると、男は分かりやすく慌てふためいた。そして上着の内ポケットに拳銃をしまうと、奥にいるもう二人のヤクザに声を掛ける。


「――おい! 撤収だ!」


 次に慌てたのは元雲竜の奴らだった。それはそうだろう。頼りにしていたヤクザが急に手を引くと言い出したのだから。


「ちょ……! 待ってくださいよ! まだ依頼が!!」

「依頼は終わりだ! 金は半分返す! 俺たちも自分の命は惜しいんだよ。あとは自分たちでなんとかしろ!」

「そんな!」

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