さよなら、愛してる〈不知火の姫 外伝〉
 ヤクザたちは車のそばに立っていた風吹と響生を押し退ける。

 そして、前面がぶつかってベコベコになった車に乗り込むと、バンパーを引きずりながら脱兎のごとく去っていった。

 残された俺たちは呆然。

 一体、何が起こったんだ?

 俺が聞く前に、弘人が口を開いた。


「――お前も知ってるだろ? 俺んち寺だって」

「ああ」

「んで、その寺の檀家(だんか)なんだよ『千里会』が。それで――」


 ――千里会は昔から、職業柄、抗争や何やらで葬式が絶えない。しかしヤクザ故にそれをとり行ってくれる寺や業者は少なく、困っていたそうだ。

 引き受けたのが、弘人の寺の道明寺。

 弘人の父親のもっと前の代からずっと、一般人と分け隔てなく葬儀や、時には結婚式までとり行っている。

 それ故、現在の頭の桜棚は弘人の父親――住職には頭が上がらない。しかも桜棚の息子と弘人は小さい頃よく遊んだ仲だったらしい。

 だから弘人から息子経由で頭に(おきて)破りがバレる事を恐れた、って所みたいだ。

 もっとも、弘人(こいつ)なら、嬉々としてばらすだろうからな。

 そこまで考えていた弘人に、感心するやら呆れるやら。俺の考えている事を見抜いたのか、弘人はピースサインなんて出してきた。

 ピース、じゃねえよバカ。

 まあでも、お陰で早く片付けられそうだ。
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