太陽のような君をもう一度
もう卒業まで残り一か月を切った。

ほとんどの人が受験を終えて、晴れ晴れとした顔をしている。







「美嶺、もう卒業だけど本当に羽鳥とこのままでいいの?」



私の机に頬杖をついて夏蓮は言う。

彼女は日向君のおかげで出来たお友達だった。



『美嶺の言葉でいいんだよ。大丈夫、美嶺は優しいから』



いつかの彼の声が蘇る。

臆病な私の背中を押してくれたのはいつだって彼だったのに。



「いいの。どうせ高校も別になっちゃうもの」

「ふーん、じゃあ高校が違う私とももう遊んでくれないんだ」

「え、そんなこと絶対ない!」



バッと顔を上げて強く否定すれば夏蓮はニマニマと笑っていた。

そこでからかわれていたのだと分かった。



「もう、夏蓮ったら」

「えへへ、ごめんごめん。でもそんな即答しちゃうなんて愛されてるなー、私」



ふふっと嬉しそうに笑う夏蓮は今日も可愛い。

夏蓮はふ、と口角を上げたまま穏やかに微笑んで私の目を覗き込む。



「あのさ、きっと離れても想いは残るんだよ。本当にいいの?」



今度は答えることが出来なかった。

黙って下を向く私に夏蓮のわざとらしいため息が上から降ってくる。



「ったく、美嶺にこんな顔させやがって」

「え」

「あのね、羽鳥はバカなの」



大真面目に夏蓮が言うから思わず微妙な顔になってしまう。

確かに日向君は学校の勉強はあまり得意ではなかった。

――人を幸せにする方法はよく知っていたけれど。



「羽鳥っていうか、恋する男は皆大バカなのよね」

「ええっと、どういうこと?恋する男って誰?」

「あの変な意地を張ってるアイツに決まってるじゃん」

「だからアイツって……」





だれ、という言葉は最後まで出てこなかった。



「美玲」



後ろから名前を呼ばれる。

私はこの声をよく知っていた。



振り向くことが出来ない。

別れてから徹底的に避けていたし、多分あっちも避けていた。

三年生で別のクラスになってしまって行事もほとんど無かったから避けるのは簡単だった。

なのにどうして今頃。



「じゃあ私は行くね。頑張れ、美玲」

「ちょ、ちょっと夏蓮!」



ささっと立ち上がって教室を去った夏蓮を呆然と眺める。

学校自体は午前中で終わったのに放課後、私を引き留めたのは夏蓮だ。

彼に頼まれたのだろう。




「美玲、久しぶり、元気だった?」

「……日向君」



窓から風が吹き込んで桜の匂いが鼻をくすぐった気がした。

気のせいに決まっている。だってまだ桜は咲いていない。

だから日向君が愛おしそうに見ているのもきっと、気のせいだ。


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