契約夫婦を解消したはずなのに、凄腕パイロットは私を捕らえて離さない
「空港にいてイタリア語を勉強しているってことは、やっぱり凪咲は夢を叶えたんだな。CAだなんてすごいじゃないか!」

 まるで自分のことのように喜ぶ父の姿に、「どんな気持ちで言ってるの!?」と喉元まで出かかった言葉を必死に飲み込んだ。

 父は真面目に働いているんだよね? スーツを着ているし、大きなスーツケースを抱えているところを見ると出張だった?

 私を探して見つけたわけではなく、偶然私を見かけたんだと思う。決して私と母の情報が伝わっているとは思わない。いや、思いたくない。

 些細なことから父にバレるのも怖いし、ここはなにも言わないに越したことはないはず。

「ごめん、約束があるからもう行くね」

 CAになったことを否定も肯定もすることなくテキストを片づけ始めたら、いきなり父はその手を掴んだ。

「待ってくれ!」

「……っ」

 びっくりして思いっきり父の手を払いのけた。だけど父は再び私の手をギュッと掴む。

「お願いだ、凪咲。金を貸してくれ!」

「お金って……」
< 119 / 236 >

この作品をシェア

pagetop