契約夫婦を解消したはずなのに、凄腕パイロットは私を捕らえて離さない
 父はなにを言ってるの? もしかして声をかけてきたのは、お金を貸してほしかったから? そっか、父はなにも変わっていないんだ。

 もしかしてまだギャンブルにお金をつぎ込んでいるの? あんなに借金を作ってさんざん私たちを苦しめたのにやめられずにいたわけ?

「定職には就いているから、すぐに返せると思う。ただ、今すぐに返さないと父さん、すごく困るんだ」

 やはり予感は的中していたようだ。おまけにまた闇金で借金を作って追われているんでしょ? あまりに父が変わらなすぎて泣きたくなる。

「悪いけど、貸してあげられるほど余裕なんてないから」

「そんなこと言うなよ。親子だろ?」

 本当、父はどこまで私を失望させたら気が済むの?

「それに父さんな、仕事でしばらくこっちに滞在するんだ。一ヶ月はいると思う。その間に給料が入るだろ? 少しでいいから貸してくれ」

「……っ」

 これにはたまらず強い力で手を振り払い、急いでテキストをバッグに詰め込んだ。

「いい加減にして。お金は絶対に貸さないから」

 お願いだから少しでも昔の真面目で優しい父に戻っていてほしかった。
 強い口調で言い返すと、父は目つきを変えた。
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