契約夫婦を解消したはずなのに、凄腕パイロットは私を捕らえて離さない
「なら一ヶ月の間、何度も凪咲に会いにくるよ」

「えっ?」

 手が止まった私に、父は愉快そうに続けた。

「お前が勤務中だろうと、空港で見かけたら金を貸してくれって声をかけ続けてやる。それでもいいのか? 嫌だろ? こんな父親がいると職場にバレるのは。困るのは凪咲だろ?」

 なんて最低な父だろうか。そこまでして娘にお金を求めるなんて。

「だけど凪咲がお金を貸してくれるって言うなら、空港には来ないよ。約束する」

 父が約束を守るという保証はない。だけどここでお金を貸さなかったら言葉通り、必ず父は頻繁にやってきて、ところかまわず私に金銭の要求をするはず。

 悔しいけれど、そんなことをされたら困るのは私だ。真琴たち職場の人に知られたくない。なにより力になってくれた誠吾さんに合わす顔がないよ。

 父のためにも尽力してくれたのに、当の本人はなにも変わっていないのだから。こんな父を誠吾さんに見せたくない。

「いくら必要なの?」

 ゆっくりと腰を下ろして尋ねたら、父は微笑んだ。
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