契約夫婦を解消したはずなのに、凄腕パイロットは私を捕らえて離さない
 契約の関係でしかなく、知り合って数ヶ月。会ったのは数えるほどだというのに、俺にとって凪咲は家族になっていた。

 それは凪咲が最後まで祖父に寄り添い、力になってくれた姿を見ていたからかもしれない。
 だけど約束は約束だ。後ろ髪を引かれる思いで離婚届けに判を押した。

 それからも凪咲のことを忘れた日などなかった。頻繁に彼女の母親と連絡を取り、近状を聞いては嬉しく思ったり、会いたくなって切なくなったりしていた。

 凪咲はしっかりと夢に向かって進んでいる。だったらきっと彼女が夢を叶えたら、どこかの空港で偶然会うかもしれない。その時がきたら迷いなく自分の気持ちを打ち明け、もう一度最初からやり直したいと伝えようと心に決めた。

 凪咲への想いはハッキリとしたものになり、俺は離婚後もずっと指輪を外せずにいた。それが職場で思わぬ方向に転がり、とても仕事がやりやすくなった。

 おかげで愛妻家という噂もひとり歩きしたが、かえって食事などに誘われず良かったと思う。

 しかし凪咲と運命的な再会を果たした時に、ひどく後悔することになった。
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