契約夫婦を解消したはずなのに、凄腕パイロットは私を捕らえて離さない
 静かな室内で知識を詰め込む中、ドアをノックする音が聞こえた。

「お疲れ様。鮎川さん、ちょっといいかしら」

「はい」

 入ってきたのは同じく今日スタンバイの先輩だった。

 他の人の勉強の邪魔にならないように静かに自習室を出ると、先輩が申し訳なさそうに言った。

「悪いんだけどこれから私と沖縄便への搭乗助っ人に来てくれる? 車椅子の方が五名搭乗されるようで、人手が必要なの」

「もちろんです、手伝います」

「ありがとう。急ぎましょう」

 先輩と駆け足で搭乗ゲートへと向かい、お客様の対応に当たり、無事に車椅子のお客様を含め、全員が時間内に搭乗することができた。

 車椅子のお客様はお仲間同士で初めての旅行に向かわれるようだ。五人とも飛行機に乗るのが初めてのようで、搭乗までは不安そうで、なにより私たちの手を煩わせて申し訳ないとしきりに口にされていた。

 その度に私たちは笑顔で否定し、空の旅を楽しんでほしいと伝え続けた。
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